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地獄車 [地獄門] Release Interview vol.02

●ここからは『地獄門』の収録曲を、一曲ずつ解説していって頂きましょう。まずは『ルチャバカ野郎』ですが、これはさっきも話が出て来ましたけれど、地獄車として初めて作った曲なんですよね。

下條「はい。でも、歌詞も変えました。昔、マキール大佐に指摘されたんですけど、それをそのまま採用しました。《ミル・マスカラス世代から ドス・カラス世代まで/それ一緒》っていう。この件でマキール大佐に全然連絡取ってないんですけどね(笑)」

●あらら(笑)。

下條「でも、これでロッテンな匂いも出るかなって。あと、以前とは音も全然違いますね。今のメンバーでゴリゴリに出来たし」

リョウジン「ルチャリブレの意味も間違って伝えていたから」

下條「そうそう。あと、歌詞には記載していないですけど、ミル・マスカラスのテーマソングの『スカイ・ハイ』っていう曲があって、その一部をオマージュとして歌っています。聴く人が聴けばわかるでしょうね。ルチャリブレのスターと言えば、僕ら世代にとってはミル・マスカラスなんで、その象徴的な曲を」

●小技が効いてますね!

マサ「地獄車って、こういう説明をしないとわからないような小ネタが満載なんで、ここぞとばかりに話しています(笑)。説明しなくてもわかってくれる人がいれば、凄くシンパシーを覚えますね」

●ちなみに今のメンバー全員、格闘技が好きなんですか?

マサ「そうですね」

下條「マサは現役で合気道をやっているし。その前に沖縄空手の黒帯を取っているし。あと、僕ら3人は見る側です。僕も最近までやる側だったんですけど、キツくて辞めました(笑)」

●(笑)。続いて『スシゴーラウンド』。

下條「これはですね、元々台湾でもリリースされたコンピレーションに入っていた曲なんですね。海外向けっていうことでオリジナルは英語でした。でも、やっぱり僕の英語の発音は良くないっていうことで、ここでは日本語に変えましたけど。元ネタは、僕、アメリカ人の友達が何名かいまして、こいつらと回転寿司を食いに行ったことですね。歌詞の内容がカタコト日本語っぽいのは、僕の友達の目線なんですよ。初めて回転寿司に行った友達、アメリカでは通な振りをしている友達、それと、僕みたいに回転寿司なんていつでも食えるような奴、その3ショットの会話が元になっています」

マサ「『スシゴーラウンド』っていうのは、回転寿司っていう意味らしいですよ。メリーゴーランド、みたいな」(↗)

●英語っていうのはレアだったんじゃないですか?

下條「でも、ロッテンでやるからには、日本語の面白さを追求しないといけないですからね。あ、さっきの英語の発音が良くないっていうのはカットで(笑)」

●(笑)。この曲もですけど、絶妙な場面を切り取った歌詞のアイディアは、どういう時に思い付くんですか?

下條「その時その時で、これは歌詞になるなって思うことがあります。寿司を食いに行った時も、面白かったんで、これは絶対に歌詞にしようって思いました」

マサ「あと、《クレイジートレイン!》ってシャウトしているところがあるんですけど、沖縄の回転寿司で、汽車が寿司を運んでくるところがあるんですよね。その寿司トレインがおかしくてですね、それとオジー・オズボーンの『CRAZY TRAIN』を掛けて。ハイトーンでシャウトしているのは、メタルへのリスペクトです」

●また小ネタ!(笑)。

マサ「オジーはあんなシャウトしないんだけどね。若干ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードと混同してるっていう(笑)」

下條「それは俺の技術的な問題で、オジーの真似が出来ないから」

●小ネタ多過ぎですよ!(笑)。

マサ「自分たちは楽しいんですけど、聴いてる人には全く伝わらないっていう」

下條「あと、アメリカ人の女性の方にナレーションも入れてもらいまして。僕らと凄く仲がいい女の子で、敢えて、実はこれは外人さんの歌なんだよっていうことを伝えるために入れたっていう。英語のダジャレみたいなね。そのへんも、笑いがあってもいいんじゃないかって」

●そして3曲目『土俵の鬼』。

マサ「2007年にシングルを作ろうよってなって、大慌てで10分くらいで作って、そのまま録ったんですけど。歌詞もね、レコーディングしながら書いたんだよね」

●えー、早いですね!

下條「僕の中では……パクリというリスペクトですけど、ガーリックボーイズの『YOKOZUNA』みたいな曲を作ろうと思って。すみません! パクったように見えないのが良かったです(笑)」

●LARRYさん、気付きました?(笑)。

LARRY「いや、全く。多分、ポイントがズレてると思います」

下條「(笑)。さっきのあぶらだこもそうでしたけど……」

LARRY「『YOKOZUNA』参考にするなら、そうじゃないでしょっていう(笑)。でも、カッコいい曲が出来て良かった」

下條「ああ、ありがとうございます!」

●そのズレがオリジナリティを生んでいるのかもしれない(笑)。

下條「ほんと、たまたまなんですけどね」

●10分くらいで曲が出来ることって、よくあるんですか?

マサ「このアルバムの中には数曲あります。その次に入っている『ブスブタババア』もそうです。明日レコーディングだよっていう時まで、曲も歌詞も出来ていないことが結構あるんですよ。追いつめられた時にぱっと出てくる感じですね」

●じゃあ、そんな『ブスブタババア』ですが……この歌詞はヤバいですね(笑)。 (↗)

下條「ほんっとこれ、女性に失礼な曲を作ってしまったなって。決して全女性に向けているわけじゃないんですよ。僕の実体験をマサに話したら、マサがこんな酷い歌詞を書いてきたっていう(笑)。アメリカ人の友達が多くて、いい奴らばかりなんですけど、連れている日本人女性が、まあ酷いんですよ。その人たちに対して思い付いた言葉が『ブスブタババア』っていう。沖縄のアンダーグラウンドな話ですよ」

●モデルがいるんですね!

下條「だから、世に出すとバレるんですけどね」

●いやあ、女に相当恨みがあるのかと思いました。

下條「ああ、それはありますけどね(笑)」

●(笑)。それにしても地獄車の歌詞って、タブーがないですよね。

マサ「でも、書いた後で後悔することは多々あります」

下條「ありますね。『ブスブタババア』は特に、家族も怒ってますからね」

●でも、書いている時に、これはマズイって止めることはないんですか?

下條「そうですね。初期衝動が大事っていうことで。育ちが悪くてすみません(苦笑)。これをOKしてくれたLARRYさんも凄いと思いますけどね」

LARRY「基本的に、酔っ払ったら僕はそういうことしか言っていないので」 地獄車「ははははは!」

LARRY「この歌詞でも非常にユルいなと。だいたいそんなもんです。地獄車の打ち上げも、全員でこういうことを話してますから」

●流石LARRYさん! そして『マッスル・ファクトリー』。

下條「これは筋トレ、そしてボディビルダーの歌ですね。LARRYさん覚えてますかね? 《筋肉天気予報》って言う歌詞があるんですけど」

LARRY「覚えてるよ。ぶるうたすでしょ?」

下條「そうそう。これ、LARRYさんが言っていて、歌詞に入れたんです。それも今作にこの曲を入れるキッカケになったんですけど。初めて僕とLARRYさんがドッキングした曲なので。最初にレコーディングした時ですよ」

LARRY「なんでその話になったんだっけ? 筋肉からぶるうたすの話になった?」

下條「そうです」

LARRY「で、《目が笑ってない》っていう歌詞は下條のことやろ?」

下條「ははははは! よく言われるんです、そういうつもりはないんですけど。それも自虐的に入れてみようかなって」

●すみません、ぶるうたすって、私は知らなかったんですけど……。

下條「ぶるうたすっていう筋肉芸人が昔いたんですよ。その人が、ポージングしながら『筋肉天気予報』ってやっていて。ボディビルといえばぶるうたすだよね、っていう話になって、ぶるうたすっていえば筋肉天気予報だよねっていう」

●なるほど!

下條「歌詞は、僕が日常的に見ているものそのままっていうのがあるんですよ。筋トレしてるし、ジムで面白い人たちを見掛けるしっていう」(↗)

●だからか、一曲一曲の歌詞のテーマがピンポイントですよね。

下條「そうですね。アルバムになっちゃうと一貫性がなくて、一話完結の短編集みたいな感じになっちゃいますね。あとは会話から出来ることも多いよね。『ブスブタババア』は僕とマサの会話が元になっているし」

●次は『エンコー少女A』。これもヤバいワードが盛り込まれていますね。

下條「これは当時、僕がリョウジンのうちに夜9時くらいに遊びに行ったら、家の前の公園から出てきた中学生くらいの女の子に話し掛けられたんですね。なんなのこの女の子は!?って思ったら、すいません間違えましたって僕のもとから去っていったんですよ。で、リョウジンが合流して、男三人でドライブでも行こうか!みたいに出発しようと思った面前で、じじいが来て、さっきの女の子と話して立ち去ったんですよね。これって援交じゃん!?って。それで僕ら、その車を追い掛けて警察に通報しようやってなったんですけど、当時は僕の車が軽自動車でですね、前のでかい車に追い付けなかったっていう。その悔しさを歌にしようやってなったら、こうなってしまったんです」

●うわ、ただのヤバい曲じゃなかったんですね!

下條「援交をどうにかせんといかん、みたいな変な正義感はあったよな」

リョウジン「あったあった」

マサ「あと、僕ら世代からすると、少女ときたらAなんですよ」

下條「中森明菜ね」

●あと、歌詞には某社会学者とかの実名も出てきますが。

下條「これは当時、SPAとか宝島でこういった話題の時に名前が挙がっていたんで。その当時は、まさかCDになるとは思わないから平気で書いていたんですよ。今後はないですよ。本人たちから抗議の声が来ないか、ヒヤヒヤしてますよ」

マサ「あとSPEEDの『Body & Soul』も出てくるね」

下條「時代観が出てますね」

●歌詞の《Body & Soul》がSPEEDから来ているとは(笑)。

マサ「あと、叫んでるところがあるじゃないですか。あれ、共産党宣言だっけ?」

下條「歌詞に載っていないんですけど、叫んでますね」

●また、盛り込みまくっていますね。そして『姥桜』もなかなか過激な歌詞ですが。

下條「これは映画『モトシンカカランヌー』の続編のつもりで書きました。沖縄復帰前の所謂ちょんの間、風俗のドキュメンタリー映画なんですけど、当時のメンバーと見に行って。復帰前は日本と法律が違うので、売春がOKな地区があったんですね。その中の沖縄市にある吉原って言う地区のドキュメンタリーで。実際にそこを僕らは見に行って、そうしたら当時も働いていたであろうお姉さま方が、そのまま70代80代になってもいるわけですよ。僕らも若かったんで、可愛い女の子がいたら人生経験をするかもしれないって思って……ガーリックボーイズの『ハッスルするっす』と被るんですけどね(笑)。でも、僕らの場合はハッスル出来なかったんですよ。さっき映画に出てた店ってここだよな?ってなっちゃって。当時のギタリストがクリスチャンで、キリスト教的な観点で嘆くわけですよ。それを歌詞にしたんですよね。思いとしては、幸あれっていうことですよね。不幸な人生だったのかもしれないですけど、今は幸せに花咲いて欲しいなって」

●パッと聴きは過激だけど、なかなか切ない話ですね。

下條「そうですね。これ、『ルチャバカ野郎』の次に出来た曲なんですよ。いろんな人にコミックソングかと思われたんですけど」

●そして『ドグマニア』もなかなかタブーに斬り込んでますよね。

下條「当時は新興宗教が世間を騒がせていて、一言物申したいっていう歌詞ですね。僕とマサの周りでも、宗教で揉めてる人が多かったよね」

マサ「当時ね」

下條「一番びっくりしたのは、マサの家に某宗教が来て……」

マサ「勧誘の人が日曜の朝とかに来るじゃないですか。なかなか帰ってくれないんですよね。でも、ある二日酔いの朝にピンポーンって鳴って出たら、珍しく何も言わず、冊子だけ渡して帰っていったんですよ。何だろう?って思って冊子を見たら“ヘヴィーメタル セックスと暴力と悪魔崇拝”っていうタイトルだったんです(苦笑)」(↗)

●わわわわ!

マサ「私、長髪で、スレイヤーのTシャツを着て玄関に出てきたので、まさに悪の手先が出てきたと思われたのかなって。でも、そういうところから青少年を救おうっていうはずなのに、俺は救ってもらえないのか、矛盾してると思ったわけです(笑)。そういう話を下條としているうちに、こういう危ない歌詞が出来てしまったっていう」

下條「でも、沖縄は多いよね? こういう宗教的な問題」

マサ「ここでは言えないような話もいっぱいありますからね」

●援交もですけど、当時の時事的なところを突く歌詞も多いですね。

下條「そうですね。何か言わんとっていう。当時僕ら若かったので、正義感が強かったのかわからないですけど」

●そして『格斗バカ☆地獄変』ですが、これは実体験ですか?

下條「これはマサの実体験ですよ。当時、僕もマサも空手をやってまして、それを面白おかしく歌にしたっていう。普段僕らは、そんなに真剣に稽古に行っていなかったのに、空手の先生に板を割ったりするやつをいきなり無茶振りされたんですよね。稽古は真面目に行きましょうねっていう自戒を込めて書きました」

●実際に歌詞のようにバットを折れと言われたんですか?

マサ「似たような出来事があったんですけど、バットではなかったですね。ツアーで道場に行けなかったりすると、当時私が通っていたところでは、わりとしごきが待っていたりしたんですよ。それを上手く表現出来ないかなって。ちょうどその頃のライヴで、バット折りとかやってたじゃないですか。だからバット折りにすれば、自分たちが普段やっていることとリンクできるんじゃないかなって」

●なるほど。次の『デスコンパ』も、実体験っぽいですね。

マサ「それは私の先輩の実体験です」

下條「僕も昔から、“コンパは百害あって一利なし”って言ってまして」

●それ、響く標語ですね(笑)。

下條「僕のエピソードは重過ぎるので、マサの先輩の実体験を歌詞にした感じです」

●でも《純情愛情不思議少女その気でついてきゃ新興宗教》っていうオチは重いですよ!

マサ「これも実話ですよ」

●そ、そうなんですね。そして《HARAKIRI》の歌詞は、他の曲のエピソード的な歌詞とは一線を画していますが……。

下條「これは、僕の地元にイ◯◯◯◯っていう自称イエス・キリストの生まれ変わりがいまして、今は沖縄から東京に場所を変えて選挙活動しているんですけど、その方の台詞なんですよ。この方は、いつも対立候補に対して『腹を切れ』って言うんです。それを歌詞にしようと思ったんですけど、流石にこの時はいい年こいてたんで、個人名は入れなかったですね」

●これを聴いたら、わかる人はわかる?

下條「でしょうし、地元の方は一発でわかってくれましたね」

●いろんな方がいるんですね……。

下條「全然当選しませんけどね。身近で又◯っていう人がいたら、沖縄では『イ◯◯◯◯の親戚?』って聞かれますよ。今、ピースの又◯って出て来てますけど、あんなの二番煎じですよ!」

●敵わなそうです(笑)。いよいよ終盤にきて『ウンコ哲学』。タイトルからウンコって、また、とんでもないですね!

下條「当時もこれはレコーディングの時に揉めましたね。リョウジンとマサ対僕っていう。当時のドラムはどうでもいいっていう感じだったので。ウンコありかなしかで延々バトルでした。何でありになったんだっけ?」

マサ「哲学的な内容をリョウジンが納得してくれて、じゃあ腹を括ってやろうっていう」(↗)

リョウジン「表面的なところを気にしていたので、歌詞をよく読めば、まあまあって」

下條「ばちかぶりの『産業』のパクリかって言われたんですけど、違いますから! これは、タイトルを忘れたんですけど、水木しげるのマンガで、ウンコを食えば仕事をしなくていい、みたいな話があったんですよ。それをマサに話したら、そんな世界が出来たとしても、絶対にヒエラルキーが存在するってって言われて。人間の欲望は限りないとか、俗物的なところを批判するような歌詞になっていったね、だんだんと」

●また、実は深いっていう。そしてラストの『鉄拳制裁』は、聴いて字の如く、アントニオ猪木さんのことを歌っているんですかね?

下條「そうです。アントニオ猪木が好きなんですけど、引退した時にこれを作りました」

●愛と共に批判も含まれているような気がしました。

下條「はい、それはもう僕個人の猪木に対する愛憎です。一番参考になるのは『グラップラー刃牙』で、モロ猪木な人がいるんです。凄くいい奴な振りして悪い奴なんですけど、僕が歌詞に込めたのはそういうニュアンスですね。僕らは猪木に裏切られる快感に慣れてしまっているんですよ」

●はい、遂に全曲を語って頂きました! いやあ、いろんなバンドの全曲解説やってますけど、これほど発見が多い全曲解説はなかなかないですよ(笑)。

下條「一つ一つがマニアック過ぎますよね(苦笑)」

Photo by 中嶋環
Interview by 高橋美穂